現代の桃源郷!? 渡鹿野島という日本唯一の風俗島に行った話 【前編】

現代の桃源郷!? 渡鹿野島という日本唯一の風俗島に行った話  【前編】

渡鹿野島という存在を皆さんはご存じだろうか。

三重県志摩市に存在する島で、古くは江戸時代に江戸~大阪間を連絡する漁師たちが立ち寄る休憩所として栄えたと言われている。平成12年に行われた国勢調査によると島の人口92パーセントが第三次産業に従事しており、ぶっちゃけると風俗を主な生業とした島である。

何を隠そう俺は10年ほど前にこの渡鹿野島を訪れたことがあり(時効)、現代を生きる好奇心旺盛な諸兄のため、ここにルポする。

−−−話は学生時代に遡る

吉祥寺の小さな靴屋でバイトしていた俺はその日も雑務をこなしながら店長と会話をしていた。

「●●くん、何か面白いことしてよ。」

「いや、どんだけ暇なんですか。知ってます? それセクハラですよ。」

人間、暇な時は刺激を求めたくなるものだけど。度を越えて暇になると倫理観がぶっ飛んでハラスメントに走る。だから大企業ほど裏では裁判が乱れ飛ぶんだろうなぁ…と、糞ほど売り上げの足しにならない非生産なことを俺は考えていた。

「あ、そういえば今日取引先のお偉いさん来るから、宜しくね。」

おいおいおい、どんだけ糞なんだ? ていうかこんだけ暇な所を見せても良いのか? 普通にイメージダウンな気がするのは俺だけ? 暇だから厄介なお得意さんを本社の奴らにあてがわれただけな気がするが、それは店長も分かっているんだろう。だからこそ俺に言ってきたのだ。旅は道ずれ。厄介な客は全員でシェアってことだろう。(この店、早く潰れないかなぁ)なんて悠長に思っていた俺は、これからの予想外の展開を想像できていなかった。

−−−大阪からの来訪者

件のお偉いさんが来店した時、まず度肝を抜かれたのは関西弁だったことだ。

「ここが有名な吉祥寺店でっか! ええ感じやな。お、なんぞ若い子もいて活気ある職場やないか。学生? 何歳? そんな若かったら毎日彼女とエエことしとるんちゃうん。ええなぁ。羨ましいわぁ。」

「あ、えっと、押忍…。」

怒涛の絨毯爆撃を行ってくる熊のような中年男性に面食らい相槌を入れる暇も無かったので、内容そっちのけで肯定した感じになった。ちなみに彼女はいない。と、まぁこんな感じで突ってきた大阪からの来訪者にこの日は仕事そっちのけで付き合わせれることになるが、人間だれしも話せば解り合える。店長ともども一生懸命楽しく会話(接待)した結果、かなり打ち解けることが出来た。

本題に入ろう。それはこの大阪熊(仮称)が俺に放った一言から始まる。

「●●くん、風俗とか行かへんの?」

ぶっちゃけ学生だったからお金に余裕があったワケではないので、行ったことは本当に全然なかった。大学の友達と一緒に酒飲んだ帰りに大塚で30分2000円という世紀末のピンサロに行ったことはあるが、それはまた別の話。

「いえ、全然ないですね…。」

「ホンマでっか⁉ それは良くない。……渡鹿野島っていう風俗島知ってる?」

「「風俗島⁉」」

思わず店長とユニゾン。

「そや、三重県にあるんやけどな。日本で唯一の風俗島って言われてる島や。若いんだから今度行ってみい。良い経験になると思うで!」

あ、なんかコレ良くない流れだな~と一抹の不安を抱えている俺をよそに横でテンション爆上がりしている店長。

「へぇ、そんなのあるんですか! 面白いですね! ●●くん、行きなさい。」

待て馬鹿。命令形で話さないで下さい。旅は道連れだろうが。しかし止まることなく続ける店長。

「●●くん、風俗も社会経験だと思うよ。大学卒業して就職する前に男を磨くべきだと俺は思う。だから行きなさい。なんなら明日から3日くらい有給あげるし、移動費くらいは出すから。」

……流れ変わったな。あれ、俺バイトだから有給とか取ったことないけど、使っていいのか? しかも移動費貰えるってことは実質タダ同然で旅行(ヌキあり)できるんじゃね? ふむ……これは中々に好待遇なのかもしれない。ここで恥ずかしがってチャンスを逃がす男には俺はなりたくない。ここぞと言うときに正しい決断をできる男でありたい。というか風俗行きたい。

「よっしゃぜ!行きます!」

こうして、満面の笑みを浮かべる大阪熊を傍目に俺の渡鹿野島行きが決定した。

−−−三重紀行

休みを貰えた上に破格の待遇で旅行する権利を得た俺はまさに水を得た魚。ここぞとばかりに家に帰った後、即身支度を終え。急遽舞い込んできた旅行にウキウキ。その日は早めの就寝を果たした。

翌日、社会経験という大義名分を背負い意気揚々と出発。せっかく旅費が出るんだからと静岡~名古屋を観光しつつ、三重に向かおうと青春十八きっぷを購入(別に青春と性春おを掛けたわけではない、決して……)。

永久に続くかと思えた静岡紀行、名古屋の工場地帯の夜景を眺めていたら朝日が昇るまで眺めるという病み具合を発揮した俺の話は省略します。これは本筋ではない。そして何やかんやあり、二日目の朝。いよいよ三重県に突入。来ました三重県。さぁ…行きますよ渡鹿野島!

……とは、ならなかった。この時の俺は精神がちょっと狂っていたと思う。これから下半身のリビドーをブチまけますよという直前。俺はまず身を清めなければという断固たる狂気から伊勢神宮に向かった。そう、お伊勢参りである。結論から言うと伊勢神宮は綺麗だった。完全に正気の沙汰ではない。さながらペニーワイズ。

−−−渡鹿野島渡航

神の恩恵を一心に受けた俺には怖いものは無い。いざゆかん渡鹿野島。というワケで伊勢神宮から天照大神の加護を授かりつつ彼の地へ向かう俺(頭悪い)。この時点で思ったことを率直に言おう。めっちゃ遠い。というのも、三重県の地理に明るい人なら分かるだろうが(そんな人はいないだろうが)、伊勢市から志摩市までは中々に距離がある。そう、渡鹿野島は志摩市の沿岸部に位置しているのだ。近

鉄鳥羽線から近鉄志摩線に乗り換え、30分に一本しかない電車を乗り継いでようやく船着き場の最寄り駅:鵜方駅に辿り着くことができる。所謂田舎のローカル線。そこからはタクシー移動。サスガ現代の秘境。

寝過ごすことなく無事に鵜方駅にたどり着いた俺。正直、この時すでに見知らぬ地でのちょっとした冒険にドキドキワクワクの興奮状態。うぉおお! どこだ島は! タクシーはどこだ! 今の俺は誰にも止められないぜ。こんな俺の気持ちが表情から漏れていたのか、俺の目に映る颯爽と掛けるタクシー。ふむ、グッドタイミング。スッと手を挙げ、冷静を装いながらタクシーを静止させる。乗り込もうじゃないか。

「えっと。運転手さん、渡鹿野島という島へ行きたいんですけd」

「ふふ、お客さんも好きモノですねぇ」

「!!?」

「遠目から見て分かりましたよぉ。お客さんが渡鹿野島に行きたがっているのはね。」

「(なん、だと……?)」

「関西では結構な人が渡りますからねぇ。キョロキョロしながらタクシーを探している人は大体あの島に渡りたがっている人なんですよぉ。そして、そんな人を船着き場まで導くのが私の仕事ってことですわ。」

どうやら俺は正解を引いたらしい。この運転手に任せておけば大丈夫そうだ。いや……だがこれは本当に正解なのだろうか。このタクシーに乗って俺は一体どこに連れて行かれるのだろうか。ニヤニヤしながら鼻歌交じりに運転する運転手の横顔からは奇跡体験アンビリーバボーの怖い回にでも出てきそうな怪しさがある。しかし見知らぬ地、頼れるのはこの人しかいない。今は身を任せようじゃないか。
そんなことを考えている俺を余所に独り語りを始める運転手。

「渡鹿野島はねぇ……江戸時代から風俗島としての生業を成功させている歓楽島なんですよぉ。大阪・京都・奈良で仕事終わりに渡航して一発、なんて人も多いですねぇ。ふふ、ほら、出張とか言っちゃえば奥さんは納得しますから。私も昔大阪の方に住んでた時はよく来たもんだなぁ。」

お前も好きモノだったか。

「お客さん、どこからいらしたんでぇ? 標準語ですから関東ですかねぇ。」

「あ、そうです。東京です(というか話し方気持ち悪ぃな)。」

「あぁ、やっぱりねぇ。東京だと立川とかは警察の一斉検挙で、不正な風俗店が軒並み閉店に追いやられたりしたじゃないですかぁ。渡鹿野島はそんなことにはならないんですよぉ。なんせ、船でしか渡れないですからねぇ。ふふ。警察と思しき人が島に向かおうとすると船頭が島に連絡を入れるんですよぉ。そして連絡を受けた島民は女の子たちを隠すんですわ。だからよっぽどのことがないとお縄にならない、天然の要塞と化しているんです。」

こいつの風俗ネットワークが関東圏にまで及んでいる気持ち悪さは置いといて、中々にブラックな事情を聞いたのでは? 手がジワリと汗ばんでくる。俺が向かおうとしているところは果たして足を踏み入れて良い所なのだろうか。突然湧き上がってきた不安を余所に、少し開け放した窓から仄かに潮の香りがしてきた。どうやらこの楽しい(?)タクシー道中も終わりが近いようだ。

「お待たせしましたぁ。着きましたよぉ。」

いよいよ船着き場に到着した。そして、俺の眼は目と鼻の先にそびえる妖しい孤島を捉えた。そう、渡鹿野島である。ついに、ついに俺は辿り着いたんだ。

「その旗の下で待っててくださいねぇ。たぶん30分以内に船が来ますので。ふふ。」

ふむ……どうやらバス的に巡回しているらしい。俺は好きモノの運転手に賃金と貴重なお話の感謝を述べ、支持された海岸線の旗の下へ向かった。というかコイツも島とグルなのでは……? どうしよう、船に乗ったら最期、北朝鮮とかに攫われたりして……とも思ったが、考えても答えは出ないので素直に従う俺。

待つこと10分ほど。対岸の島から一台のモーターボートがこちらに向かってきた。

「(も、モーターボート……!!)」

いや、そんなすごい船とか想像してたワケじゃないけど。いよいよ脱北者じみてきたな……。

船(モーターボート)の先頭を見ると、一人の中年が俺を厳つい顔で見ている。あれが船頭さんなんだろう。怖い。

「兄ちゃん、島に行きたいのかい? 乗りな。楽園に連れってってやるよ。」

≪To Be Continued≫

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